インタビュー

健康寿命の延伸と地域医療への貢献で目指すヘルスケア・イノベーション

出典:ドラッグマガジン2023年10月号(株式会社ドラッグマガジン)

 9月29日に創立20周年を迎えたアルフレッサ ホールディングス(HD)。医療用医薬品等卸売、セルフメディケーション卸売、医薬品等製造、医療関連(調剤薬局等)の4事業を柱とする同HD の連結対象は15社。全国をカバーする医薬品流通ネットワークを通じて提供する医療用医薬品の売上は2兆3953億円で第1位だ(小誌7月号「医薬品産業ランキング」)。2020年から代表取締役社長を務める荒川隆治氏にグループの展望を聞いた。

荒川隆治(あらかわ・りゅうじ)
●1963年3月5日生まれ。87年4月山之内製薬(現アステラス製薬)入社。中薬(現アルフレッサ)を経て、2009年4月シーエス薬品(現アルフレッサ)代表取締役社長。16年10月アルフレッサ ホールディングス取締役常務執行役員事業開発担当、19年4月同社取締役常務執行役員コーポレートコミュニケーション・事業開発担当、20年4月同社取締役専務執行役員コーポレートコミュニケーション・事業開発・海外担当。20年6月同社代表取締役社長。

「安藤俊市主幹(小社創業者)には、祖父の代から大変お世話になりました」と話す荒川氏

なりたい姿(長期目標)はヘルスケアコンソーシアム® の実現

──20周年を迎えたアルフレッサ ホールディングス(HD)の現在までをお聞かせください。

荒川 アルフレッサグループは03年9月29日、アズウェル(商圏:関西、東海地区)と、福神(商圏:関東)という2つの広域卸業者が株式交換で設立されました。グループの大黒柱である事業会社のアルフレッサは翌04年設立ですから、親会社のHD が先に立ち上がった形です。90年代終わりから合従連衡が進み、卸のM&A が積極的に始まった中で、広域卸の将来は難しい、地域卸はさらに難しいだろうと、全国を目指すグループを設立したのです。
 その後、東北、東海、北陸、四国、中国地方、沖縄と地域卸が次々に加わり、アルフレッサグループの医療用医薬品等卸売事業が拡大していきました。
 一方、OTC の卸売事業(セルフメディケーション卸売事業)も複数の会社の事業を譲り受けて大きくなり、11年10月に、現在のアルフレッサ ヘルスケアになりました。
 また、アルフレッサ ファーマは設立当初から旧日本商事の製造部門がありましたので、製造事業としてスタートし、他社の工場などを譲り受けて強化してきました。
 SPD(院内物流管理)事業についても、当初は合弁でしたが、現在は完全子会社としており、SPD 事業を持っていることにより、医療用医薬品等卸売事業とのシナジー効果も非常に大きくなっています。
 調剤事業の拡大や、研究用試薬卸売事業への参入なども手掛け、20年間でわれわれが目指すヘルスケアコンソーシアム® が少しずつではありますが、確実に形になりつつあります。コンソーシアムとは金融業界でよく使われる、一つの目的に向かって大同団結して進む形のことを表す言葉です。私どもはヘルスケアの大同団結、ヘルスケアコンソーシアム® と命名しました。健康に関するあらゆる分野の商品・サービスを提供できるヘルスケアコンソーシアム® の実現を、アルフレッサグループの「なりたい姿(長期目標)」として、取り組んでいます。

──「なりたい姿」は、22年に「22-24中期経営計画 未来への躍進~進化するヘルスケアコンソーシアム~」で公表されました。事業の柱は大きく、医療用医薬品等卸売事業、セルフメディケーション卸売事業、医薬品等製造事業、医療関連事業(調剤薬局事業)の4つですね。

荒川 はい。設立から7、8年は医療用医薬品等卸売事業の全国展開が一番の目的でしたが、形がある程度整ってきた2010年以降は、4つのセグメントがそれぞれ強化を図り、アルフレッサグループとしてシナジー効果を出しながら地域の健康、医療への貢献を目指す形が現在まで続いています。

──荒川社長自身のアルフレッサHD への関わりは。

荒川 03年のHD 設立時、その前身の福神と、私が勤めていたシーエス薬品とは業務提携の関係でした。その後、シーエス薬品が完全子会社としてアルフレッサグループ入りをした07年に、アルフレッサHD の取締役を拝命。当時、事業会社の社長がHD の取締役会に集まり、侃々諤々話し合う熱量、醍醐味は非常にインパクトが強く、これが全国展開するアルフレッサグループなのだなと実感しました。
 16年にシーエス薬品がアルフレッサと合併、私はHD の久保泰三社長(当時)の下で仕事をした後、20年6月に代表取締役社長を拝命して今に至っています。

代表取締役3人体制で社会価値創造をスピードアップ

──6月には、取締役副社長の岸田誠一氏と福神雄介氏が、代表取締役副社長になりました。代表権を3人が持つ狙いは。

荒川 業界を取り巻く環境が大きく変わっています。具体的には、21年から毎年薬価改定になったことで、採算性が非常に厳しくなりました。また、PIC/S GDP に代表されるように、ロジスティクス、物流の部分でも国からの要請や自主基準、あるいはお取引先である製薬企業からの期待やお得意さまに提供しなければいけない品質、あらゆる意味でハードルを高く設定する必要がある。プロモーションコードの問題もあり、03年から20年までとこの3年間は、やらなければいけないこととそのスピード感が全く違ってきています。HD として事業会社と連携しながら着実に進んでいくためには、代表権を複数で持つことがいいと判断しました。
 福神雄介副社長は、一番大きい事業会社であるアルフレッサの社長も兼務していますので、代表権を持ってしっかりと責任を持ちながら、推進力を持って進めてもらいたい。また、財務資本戦略も今は一昔前と変わっています。東証一部がプライム市場になり、投資家や株式市場に対しての説明責任が問われています。これは本来、上場会社にとって当たり前のことですが、日本は欧米と比べてそのあたりが多少緩やかな時代が長かった。それがいよいよグローバルスタンダードで求められるようになり、われわれも対応が必須となりました。財務担当である岸田副社長にも、責任とスピード感を持って動いてもらいたいと思っています。
 取締役会において、社内外の取締役、監査役全員の合議制で決めたことを、いかにスピード感を持って進めることができるか。それには私を含めた3人体制で進めていくことが必要と判断しました。

──今年、「アルフレッサグループ中長期ビジョン」を公表。22年度実績を踏まえて、32年度までに目指す目標値を示されました。「22-24中期経営計画」で示した「なりたい姿」との関係は。

荒川 図表①②は「中長期ビジョン」の中でお示した事業戦略の抜粋です。図表①左の「価値創造の源泉」は、アルフレッサグループが持っている強み。これをベースに事業戦略──医療用医薬品を中心とした基盤事業の強化、成長事業の育成、新規事業の開発の3つにDX の展開を絡めて進めていくことで、図表①右の「社会価値」を創造していきます。
 図表②下方に、32年度のKPI として売上高4兆円、営業利益700億円以上、ROE8%以上と記しましたが、社会貢献として何ができるかというと、図表①右の3つです。健康寿命の延伸、地域医療への貢献、そして、ヘルスケア・イノベーション──これらに取り組んでいくことがわれわれの社会価値創造ストーリーであり、ヘルスケアコンソーシアム® が目指す、32年までになりたい姿だとイメージしていただけたらと思います。

図表①②とも、アルフレッサグループ中長期ビジョンより(23年5月15日公表)

シナジー効果でソーシャル・イノベーションへ

──事業ポートフォリオ拡大・変革イメージ(図表②)についてもう少しお聞かせください。

荒川 基盤事業である医療用医薬品の市場は約10兆円で今後も大きくは変わらないでしょう。医療用医薬品卸として市場シェアを伸ばすことは当然ですが、特にスペシャリティやサブスペシャリティといわれる医薬品は一元流通が多く、それらをしっかり取り込んでシェアを獲得していきます。
 医療関連事業(調剤薬局事業)については、地域に密着したドミナント化を進めます。特に在宅やターミナルケアも含めて取り組み、オンリーワンの薬局を目指します。
 2つ目の成長事業では、メディカル品(医療機器、診断薬や、医療材料、栄養食品など)を積極的に伸ばしていこうと、6、7年前から各事業会社が力を入れてきました。相当のシェア実績も作り、ノウハウも持っている中、この中計でさらなる強化を目指します。
 また、セルフメディケーション卸売事業では、セルフプリベンション(SP)商品と呼んでいる、未病や予防といった分野の製品を発掘して積極的に専売品として扱います。これはイメージ戦略ではなく、しっかりとしたエビデンスベースの商品に限ります。
 また、今までの薬局やドラッグストアなどのお得意様に加え、ニューチャネル──新たに物販にも力を入れ始めた調剤薬局等に対しても、医療用医薬品卸とセルフメディケーション卸を併せ持つ当社グループならではの強みを生かし、専売品等の販売に注力していきます。ライフサポートフェアやソリューション展示会において、調剤薬局向けの提案が非常に好評を得ています。
 製造事業では、受託製造に注力します。低分子の中でも高薬理活性の医薬品を製造できるようなラインに投資をして、確固たる受託製造のポジションを確立する。アルフレッサ ファーマはもともと、中枢神経系に強みを持つ会社ですので、そういった領域に力を入れていきたいと思っています。

──3つ目の新規事業は。

荒川 まず、再生医療サプライチェーン。ジェネリック医薬品や抗生物質は原薬や原料の多くが韓国や、中国、インドなどからの輸入です。コロナ禍に加えウクライナの地政学的問題で、各国が保護主義になる中、再生医療等の原料も大半が輸入であることに注目しました。医療用医薬品卸として社会インフラとしての使命を持つわれわれは、再生医療分野でも貢献したいと考え、福島県郡山市と神奈川県川崎市殿町に製造拠点を持ち、国産細胞原材料(マスターセル)と自家・他家型の細胞化合物の製造事業を行うセルリソーシズを22年4月に設立しました※1
 ヘルステックの部分では、22年7月に医師向け会員制ウェブサービス『ドクシル』を運営するゲッカワークスを設立しました。実名医師の専門性データや全国の医療機関データを活用して、地域の医師や遠隔地の専門医同士をオンラインでつなぎます。本来知り合うことがなかった医師と医師を「知り合わせて、つなぐ」仕組みです。医師同士のネットワークを広げてつながりを深めるために「見つける」「知ってもらう」「つながる・つなげる」「伝える・知らせる」という4つの面から豊富な機能を搭載しています※2

※1:ドラッグマガジン2023年6月号参照
※2:ドラッグマガジン2023年9月号参照

──新規事業の中の調剤センター事業は、調剤の外部委託ですか。

荒川 はい。規制緩和の部分でクリアすべき課題がまだありますが、リフィル処方箋やメールオーダーが日本で普及していく過程で、調剤センターは社会ニーズに合致するだろうし、経済効率の面でも高い評価を受けると思います。
 中長期ビジョンに調剤センター事業を出したところ、お得意さまから「小売と競合するのか」というような声も一部出ましたが、決してそうではありません。薬局で対面の服薬指導を受けて薬を受け取りたい患者さんは多いでしょうし、生活習慣病などでリフィルがいいという方はメールオーダーで調剤センターからご自宅への配送を選ぶでしょう。患者さんが薬の受け取り方を変えるのに対して、アルフレッサグループだけで自己完結するのではなく、お得意さまと連携しながら、互いの強みを持ち寄って、シナジー効果を出していこうということです。

──読者へのメッセージをお願いします。

荒川 アルフレッサHD として20周年を迎えられたのは、ステークホルダーの方々のご支援のおかげであり、心から感謝申し上げます。
 日本は世界に冠たる長寿国ですが、平均寿命と健康寿命の差が約10年あります。われわれは健康寿命の延伸、地域の医療への貢献に本気で取り組んでいきます。互いの強みを生かして、ヘルスケア・イノベーションを起こしましょう。
 明るい地域社会を作ることに貢献し、ヘルスケア・イノベーションをソーシャル・イノベーションにまで広げられたら、アルフレッサグループの社員一人ひとりも誇りに思え、本当に楽しいだろうなと思います。読者の皆さんにぜひ、いろいろご提案いただき、協力・協業していけたらと思います。